保険×メタバースがもたらす世界とは?

Guard Tech検討コミュニティ、保険×メタバースについて勉強会を開催

保険×メタバースがもたらす世界とは?
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保険×メタバースがもたらす世界とは?

Guard Tech検討コミュニティ、保険×メタバースについて勉強会を開催。
APIエコシステムでパーソナライズされた『安心・安全』をお届けするInsurance as a Serviceの実現を目指す、Guard Tech検討コミュニティは「第5回Guard Tech勉強会 保険×メタバース」を開催した。約130名が参加した本イベントでは、有識者達によりメタバースやweb3について業界を問わず紹介されたほか、メタバースにおける保険の可能性などが紹介された。各社の取り組みをはじめ、可能性や課題など視聴者の新たなインサイトを刺激する会となった。
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©2022 GuardTech検討コミュニティ

目次
2022年7月22日(金) 19:00〜21:00に開催され、以下のプログラムで進行した。
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第一章: トークセッション「web3時代突入前に知っておきたい、web3・メタバースの基礎知識」 第二章: ラウンドテーブル① 「web3時代はどんな世界?」 第三章: トークセッション 「保険×メタバース〜なぜ保険会社がメタバースに取り組むのか〜」 第四章: トークセッション「メタバースと保険営業の未来」 第五章: ラウンドテーブル② 「メタバースで保険はどう変わる?」

第一章:web3時代突入前に知っておきたい、web3・メタバースの基礎知識

はじめに、暗号通貨専門家として活動する傍ら、不動産ディベロッパーや経営アドバイザー、メディア編集者として活躍するスラッシャーの中島宏明氏がweb3・メタバースの基礎知識を自身の見解も交え紹介した。

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中島 宏明(なかじま ひろあき)氏
スラッシャー/フリーランス
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。
監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が日本、イギリス、アメリカで発売中。マイナビニュースでは、投資や新時代の働き方をテーマに連載中。M&Aに関するコラムも寄稿している

Q1:web3ってなに?
仮定義として「分散型インターネット」と紹介した。web2もweb3の概念が生まれて定義されたことから、web4やweb5の時代が来た時に定義されるとした。web1とweb2についても下記スライドのように示した。また、web3誕生の背景には米国のGAFAMを始めとするテック・ジャイアンツが国家よりも大きな影響力を持ってしまったため、様々な歪が生じてしまい、そのアンチテーゼ(反対理論など)として生まれたものだと解釈していると紹介した。
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©2022 GuardTech検討コミュニティ
 
Q2:「分散型」の始まりは?
「分散型」という概念の近年の起源は暗号通貨であるビットコインが発祥とし、仮想通貨やクリプトカレンシーもすべて暗号通貨と同義と紹介。その誕生背景には「世の中は中央集権型でないと機能しないのか」という問いを投げかけたことがきっかけにあり、既存体制や権力、既得権者に対してのアンチテーゼがあったのではないかと語った。
 
Q3:「分散型」はどう広まっていったのか?
この概念は「通貨→金融→組織」で発展を遂げた。具体的には、分散型通貨の概念からスタートし、ビットコインや分散型のクリプト群などを挙げた。その後、分散型金融につながり、DeFi(Decentralized finance / 金融サービスの自動運転)が誕生。融資ローンサービス、取引所サービスなどが中央集権ではなく分散型で運用されている。その後、分散型組織としてDAO (Decentralised Autonomous Organization / 分散型自律組織)という言葉が使われるようになったとし、今後はメタバース上で国家が生まれる可能性をも示唆した。
 
Q4:DeFiのメリットとデメリットは?
仲介不要かつ、安い手数料で、国を越えて利用できるというメリットがある。一方で、責任の所在が無くなり、究極の自己責任がデメリットであると紹介した。
 
Q5: DAOは成立・永続するのか?
中島氏は世の中は分散と集中を繰り返すものだと述べ、DAOの概念は「ティール組織」に近いと考察した。従来の階層構造とは異なり、マイクロマネジメントなく自分たちで組織を作り、上下関係が存在せず、スキルや個性を発揮しながら運営していると話した。ただ、DAOに似た概念としてリクルート社にある「社員皆経営者」や「自走する組織」を例に挙げ、この概念が新出ではないと考えるとも語った。
また、ビットコインは登場したときから分散型であったので同氏は「いきなりDAO」と呼んでおり、イーサリアム財団などは段階的に分散型を目指すDAO的組織と言えることから「だんだんDAO」と呼んでいると紹介した。「だんだんDAO」の課題として、ビットコインの創設者とされるサトシ・ナカモト氏が世間に全く出てこないことを例に上げ、象徴的な人物は姿を消さないと中央集権を分散するDAO化は難しいのではないかと示唆した。
 
Q6: NFTってなに?
流行語大賞にもノミネートされて、ある程度認知度が上がっていると紹介しつつ、簡単に言うと代替性のない「世界に1つだけ」のトークン=デジタル証明書であると説明した。
 
Q7:NFTは何から始まったのか?
ゲームの世界から始まり、ブロックチェーンを活用したゲームでは、アイテムやキャラクターをトークン化でき、これらのトークンがNFTと呼ばれていると紹介した。誕生当時はゲーム内でのみ入手可能であり、取引ができるレアな「デジタルアイテム」のことを指していたとし、やがて、デジタルアートやメディアアートなどの世界に派生し、NFTというものが話題になったと考えられると紹介した。※トークン化:機密データを非機密データに置き換えることで保護する仕組み。
 
Q8:メタバースで重要なことは?
メタバースには生態系(エコノミー)があり、人が存在している世界であることを認識することが重要であるとした。メタバースは、平面で行われていたインターネット体験が立体化し、リアルとの境界が薄らいでいくものであると紹介した。そして、メタバースを構成する要素は3D空間・アバター・交流機能、そこに人がいる(=生態系)ということが言えると語った。
 
Q9: web3サービスで重要なことは?
お客様はどのような課題を抱えているのか、そしてどのような課題解決ができるのかという基本的な原理・原則に立ち返り、突き詰めて考えることがweb3に取り組んでいくことにつながっていくと言及した。数年後web3の分野で生き残れる企業になるために、web3やブロックチェーンを前提とした事業を検討するのではなく、お客様の課題解決を突き詰めた上で活用を検討していくのが良いのではないかと言及した。
 
Q10: web3で顧客体験はどう変わる?
保険業界であれば、老後の生活をメタバース上で疑似体験してリスクを想起させるなどの可能性について紹介した。また、金融機関もメタバース支店が増加すると考察し、性別・年齢・国籍・人格を越える100のアバターを駆使して100倍の成果を出す保険募集人の方が現れる可能性も示唆していた。

第二章:web3時代はどんな世界?

ラウンドテーブル①「web3時代ってどんな世界?」ではモデレーターをSymphonyアジアパシフィック地域戦略企画担当の上原玄之氏が務め、パネリストに住友生命保険相互会社理事 デジタルオフィサーの岸和良氏、セガ エックスディー 取締役 執行役員CSO片山智弘氏、そして、第一章で講演した中島宏明氏によりディスカッションが実施された。

モデレーター
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上原 玄之(うえはら つねゆき)氏
Symphony アジアパシフィック地域  戦略・企画担当
Symphonyにてアジアパシフィック戦略・企画担当として日本市場およびアジア地域での事業展開に従事。グローバル金融業界でのテクノロジーインフラやプラットフォームに関する経験を活かし、グローバルおよび日本の金融業界のコラボレーション・プラットフォームを通じた業務効率向上やイノベーションをサポートしている。
Symphony 入社以前は、約20年間に亘りゴールドマン・サックスにてグローバル規模のテクノロジープラットフォームの構築やワークプレースの変革に携わり、テクノロジープラットフォームを活用しての新しい収益の可能性の模索や組織の変革に貢献。2017年8月より現職。
パネリスト
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岸 和良(きし かずよし)氏
住友生命保険相互会社 理事  デジタルオフィサー
生命保険基幹システムの開発・保守、システム企画、システム統合プロジェクト、生命保険代理店の新規拡大やシステム標準化などを担当後、健康増進型保険“住友生命「Vitality」”の開発責任者を担当。現在はデジタルオフィサーとして、デジタル戦略の立案・執行、社内外のDX人材の育成活動などを行う。
株式会社豆蔵デジタル担当顧問、株式会社NODE客員Director、株式会社経済産業新報社顧問、株式会社ネクストエデュケーションシンク最高デジタル担当顧問
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片山 智弘(かたやま ともひろ)氏
株式会社セガ エックスディー  取締役執行役員CSO
大学院生時代に就職活動の採用試験を練習するイーラーニングサービスで起業。2年間経営後にサイトM&Aでイグジットして株式会社電通へ入社。
電通入社後は、一貫して新規事業部署に所属。デジタルテクノロジーを活かした広告分野や自社アセットとシナジーのあるテック関連の事業開発または商品開発に従事。電子雑誌コンテンツ配信事業の開発責任者、BIツールやMAツールを利用した商品開発およびプランニングフレーム開発の担当者、グロースハック系ソリューションとの業務提携プロジェクトのプロジェクトリーダーなどを歴任。
2019年7月より、セガグループであるセガ エックスディーへの合弁会社としての電通の資本参画を契機に取締役執行役員CSOも兼任。ゲーミフィケーションとデジタルテクノロジーを活かした新規事業と広報・マーケティングを管掌。
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中島 宏明氏
スラッシャー/フリーランス

ー 各々の業界ではどのようなweb3の世界を期待しているか
上原氏:日本は様々な業界が垂直直結型が大多数を占めるが、個が強くなり活躍できる世界になるのは非常に良い傾向だと考えている一方で、個が強くなると、格差も生む可能性がある。
中島氏:既に10代の若者がSNSのアカウント複数使い分けているので類似の世界は既に体現されているが、アバターにより複数の自分を持つことが当たり前になると考えている。メタバース上で情報収集や発信はもちろん、ビジネスにつながることもあるだろう。
片山氏:従来であれば、企業の構成要素は株主・会社・ユーザー・代理店程度の関係性しか存在していないが、この社会的な距離感の選択肢が増えると考察する。DAO化したメタバース上の組織にトークン発行元や盛り上げるメンバーなどという関係性や非従業員・非株主でも意思決定に関係したり、企業の中から応援するメンバーが生まれたりするのではないか。これは現在不可能ではないが、より参画しやすくなる世の中となると考えている。より参画しやすくなる世の中となり、選択肢の幅が広がるのではないかと考える。
岸氏:組織が肥大化し時間がかかってしまう意思決定について、分散的な活動が推進されることにより、小さなところで新しいものを即時に試し、スケールさせていける可能性があるのではないか。
 
ー ゲーミフィケーション(ゲーム化されていく世界)とweb3の世界の関連性はどう見ているか
片山氏はweb3やNFTはエンターテイメント業界では導入が少しずつ進み、ユーザーが様々な形で参加ができ、ファンコミュニティができてきていると紹介した。消費者の行動促進に寄与するので関係者の中では評価されていると紹介した。一方でゲーミフィケーションがweb3やメタバースの世界で社会活動全体を促進させるような価値提供には、まだ研究が必要だと言及した。
その理由には、ゲーミフィケーションには3点の人の心を動かす接触点が関連するとし、ゲーミフィケーションを作る深度によってこの3点を落としていくことを紹介した。
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ナッジ:最初の一歩のハードルを下げる行為 スティックネス:続けたくなる イマース:はまる、没頭する(※社内用語)
しかし前述の通り、web3では個人の力が強くなったり、法人の意思決定が変わったりと、構成要素が従来の企業とユーザーだけというシンプルな世界ではなくなる。そのためカスタマージャーニーも多様化し、膨大で複層な企画設計が必須であること、複数アカウントユーザーに対するフレームワークも無いことをあげた。そして、密接な関係にあるのが行動経済学だが、一部矛盾する点などもあるためゲーミフィケーション×メタバース(web3)に関しては課題があると言い、片山氏も取り組んでいると語った。
 
ー ゲーミフィケーションのアイディアにおけるweb2とweb3の違いは?
片山氏は、ベーシックなフレームワークはそのままNFTの世界でも使用されている。web2のゲーミフィケーションが注目されている理由は前述の行動経済学とテクノロジーの進化で簡単に実装できることが挙げられるが、web3には2つの課題があるとした。1つはテクノロジーがまだ整っていないこと、もう1つはアンダーマイニング効果との矛盾だと話した。
アンダーマイニング効果とは、行動経済学や心理学において証明されている効果であり、内発的動機づけではまっている人に対して、定量的な報酬を渡すとモチベーションがなくなってしまうことを指す。
ただ、この論理はweb3のトークンエコノミーに矛盾してしまう。トークンエコノミーはそのサービスにはまり、どんどんトークンを得ようとするものだ。しかしアンダーマイニング効果論だと、トークン(=通貨)を得ることが目的化すると、モチベーションが下がってしまうことになるが、ここに矛盾する。片山氏はこれを覆すフレームワークが必要だと言及するとともに、定量的価値と定性的価値のバランスはまだ最適化できていないように感じると述べた。
 
ー 体験のゲーム化、歩いて稼ぐモデル『Vitality』の状況は?
岸氏は2018年に販売開始した住友生命の「Vitality」は2016年頃に構想し、歩いたり健康活動が上がるとポイントをもらえるものであり、行動経済学をベースにナッジを組み込んでいたと紹介した。当時仮設とした「ただ得るよりも、自分で行動して得る方が満足度は上がる」というのは、最近のお客様満足度調査からも同様の分析ができており、ゲーム感覚で楽しんでもらっていることは明白だと述べた。
ここで興味深いのは、得たポイントを寄付に回す加入者が多いことだと言う。前述の片山氏の考察の通り、社会貢献は世界的にも関心の高いトピックであり、社会貢献していることで充足感を得る人が多いのであれば、自己の財のためにトークンを得るという発想に疑問を抱くようになったという。Vitalityはweb3時代との親和性も高い”Play to earn(遊んで稼ぐ)”だが、換金できるトークンの仕組みを作ってしまうと、これまでの世界観を壊すことになりかねないと懸念を示した。
 
ー DAOの世界は広がるのか?
中島氏はこれから、一社に属するのではなく「複業」が当たり前になっていくと話した。これによりDAO的な働き方を選択する日本人が増加し、徐々に日本全体に普及していくと見ている。このパラレルワーク状態を前述の「だんだんDAO」の状態だと話した。
上原氏は一社専属から転職先が急にDAO的組織だと、急激な変化により適応できない可能性も考えられるが、パラレルワークであれば、いずれかがうまく行かなくても、他で調整することが可能になりそうだと語った。
続いて、対極にある大企業からみた可能性について岸氏が言及した。DAOは企業の組織と対極にあるものなので、日本においては一般的な疑問として、「そんなものに責任がまっとうできるのか、意思決定を任せられるのか」が出てくるとあえてネガティブな要素で紹介した。ピラミッド型の階層で意思決定をしているということは、誰かが最終責任を取らないと意思決定を持てない状況でそれを並列にしていくというのは相容れないと思っている。
自身が顧問を担当する企業のひとつにDAOへの移行に挑戦している企業がある。また、住友生命のグループの中で手掛けている研修事業も、利益を社会貢献に活かそうとしていることを紹介し、そこでは、仕事のモチベーションの低い社員が”ワクワクする、面白い”といった反応へと変わり、自発的にイーサリアムに登録したなどの報告もあり、人材教育への大きな可能性も秘めてると考えているとのことだった。
前述の通り、大企業は身動きが取りにくく、新しいサービスを考えて実験するにも予算や想定される利益など目先のことを突破するのに苦労する。この状態で全く知識のない上司にDAOの説明やビジネスモデルの話をしても、到底理解してもらえるものではないと判断し、自分の資産で実施することになると話した。しかし、住友生命では経営陣と対話を重ね、新たな取り組みに挑戦できる環境を整備できており、オープンイノベーションにつながると考えている。こうして、DAOの活用には可能性を感じる一方、説明し納得してもらうのは難しいと考えるとも言及した。
企業の仕事として、社内副業としてDAOは存在するかもしれないし、社内を出てDAOツール化し、だんだんDAOという言葉の通りになるのではないかと上原氏はまとめた。
 
ー NFTアートの向かう先は?
片山氏はNFTアート購入などの消費行動は一旦落ち着き、平準化し、今後は履歴やクレデンシャル情報など社会的な価値に活用されていく。これまでもあらゆる履歴は取得できないわけではなかったが、さらに取得しやすくし、その証を残す活動が始まっており、電通グループとシビラ、ソニーでは個人の学びや活動実績をNFTでデジタル化し、クレデンシャル管理する実証実験を実施していることを紹介した。また、例えば寄付など参加したコミュニティのみで配布されるNFTが盛んになれば、社会貢献へつながる可能性も示唆した。
 
 保険とメタバースの相性は?
岸氏は保険は万が一のための存在ではあるが、加入後の体験や保険自体の面白さが弱いと言われ続けており、誰が付加価値をつけるのかが課題だ。しかしデジタル空間であれば、差別化して価値を付けることも効率的にでき、現実世界で対面するよりも合理性もあるのではないか。また10年、20年経つとリテラシーも変わってくるだろうと締めくくった。

第三章:保険×メタバース~なぜ保険会社がメタバースに取り組むのか~

「保険×メタバース〜なぜ保険会社がメタバースに取り組むのか〜」と題し、三井住友海上火災保険株式会社のビジネスデザイン部にて、メタバースと保険に取り組む柴崎剛氏が登壇した。

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柴崎 剛(しばさき ごう)氏
三井住友海上火災保険株式会社  ビジネスデザイン部 課長代理
三井住友海上にて、個人向け火災保険、自動車保険の企画開発、お客さま向けアプリの企画運営を担当。大手自動車メーカーの相対営業へ異動後、そのままの流れで同社へ出向し、新たなソリューションを活用した販売店ビジネスの企画・推進を経験。
現在、三井住友海上のビジネスモデル変革や中長期的な商品・サービス検討に従事し、その一環としてメタバースでの新たな商品・サービス検討を主導中。

ー なぜメタバースなのか?
メタバースには2030年頃100兆円規模のビジネス産業になるという予測が立っており、右肩上がりの成長産業であると見込んでいる。バーチャルで新しい生活圏が生まれ、巨大な経済圏が誕生すると、資産保全ニーズがあり、保険での担保が必要になるので魅力的だと紹介した。
現在はリアルとバーチャルの両空間を融合する保険体験はどのようにしたら起こりうるかを考えている。代理店も顧客も高齢化している中で、新たな顧客基盤となるZ世代以降とはどのように接点をもって、顧客に取り込むか思案する中で一つの接点としてメタバースに魅力を感じていると語った。
 
ー web3時代ならではのリスクが顕在化
セキュリティリスクの担保や商標権侵害など知財権の法整備が整わないうちに、被害が発生し訴訟に発展しているサイバーリスクについても言及した。セキュリティレベルとハッカーはいたちごっこであり、最終的にはメタバースにとって必要不可欠の最後の砦として保険が残るのではと語った。また、メタバース上で生活圏ができてエコシステムができ始めた今、セクハラ・暴力行為や依存症、プライバシー問題といった倫理的問題も発生していることを課題にあげた。
 
ー ユーザー交流から課題解決するメタバースプロジェクト
このような課題解決のための、同社のメタバースプロジェクトを紹介。ユーザー交流を通して、どういったデモグラフィックがあるのかを知るためにGDH拠点(Global Digital Hub)を作り、必要な保険サービスを検討していると言及した。そして、現在はショップや拠点を置く場所について調査しているとのこと。顧客から探してもらえることが需要ではあるが、メタバースならではの課題の強みはまだ模索中であるとした。一つ可能性としてあるのは、「疑似体験」と紹介した。その理由として、保険は実体験や危機感が伴わないとなかなか加入に至らないとし、そのシュミレーションができるのはメタバースの強みだと考える。アバター同士で商品説明を実施し、ネット完結する保険商品のラインナップの充実が今後の課題とした。
最後に、三井住友海上はセキュリティ・セーフティに資する商品等を提供し、メタバースの安全と安心をお届けするというコンセプトでメタバースに取り組んでいるので、協業の問い合わせがあればぜひ教えてほしいと語った。

第四章:メタバースと保険営業の未来


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古荘 佳子(ふるしょう よしこ)氏
アビームコンサルティング株式会社 金融ビジネスユニット シニアマネージャー
東京工業大学を経て同大学院卒業後、アビームコンサルティングに入社。その後、外資系コンサルティングファーム2社を経てアビームコンサルティングに再参画。 保険業界を中心としたコンサルティング業務に10年以上従事し、新規ビジネス創出、PMI、 DX、アジャイル開発管理、事務・システム改革等、多数のプロジェクトリードを経験。 銀行、商社、リース、製薬会社等、保険以外の業界でのプロジェクト経験も有する

「メタバースと保険営業の未来は?」
古荘氏はメタバースと現実世界で営業活動する職員の一日の未来モデルケースを紹介した。メタバースと現実空間が融合するような営業活動になるとし、メタバース上のイベントに参加して、見込み客を発掘したり、関係構築の会話のきっかけには、バーチャルアクセサリーなどがあると述べた。
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©2022 GuardTech検討コミュニティ
加えて、メタバースが注目される理由については、デモグラフィック属性からサイコグラフィック属性へ、規範から想像へ、管理から自律へという3つの価値観の実現可能性に熱狂しているのではないかと紹介した。キャズム(市場に製品やサービスを普及させる際に超えるべき障害)を超えていないメタバースが、一般化するかは不明だが、事実、興味を持つ人は多いので、いずれの空間であったとしても、保険会社は価値観の違いに対応していく必要があると述べた。(※同内容は同社のインサイト内に掲載。)
保険営業の世界では、テーマ起点の組織やプロセス生成の仕組みが作られる可能性を言及し、規範から想像へ移行することで営業のデザイン力が評価されていくことを想定しているとした。また、管理から自律へ変化することで組織がDAO化し、例えば、管理職は「管理」ではなく、「サポーターやアドバイザー」へと役割は変化し、管理は自動運営できる可能性も示唆した。

第五章:メタバースで保険はどう変わる?

最後のラウンドテーブルでは「メタバースで保険はどう変わる?」をテーマにセールスフォース・ジャパンの東山勇介氏をモデレーターに、三井住友海上の柴崎氏、住友生命の岸氏、アビームコンサルティングの植田氏ならびに古荘氏でパネルディスカッションを実施。

モデレーター
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東山 勇介(ひがしやま ゆうすけ)氏
株式会社セールスフォース・ジャパン  インダストリーズトランスフォーメーション事業本部  ディレクター 保険業界担当
大学卒業後、コンサルティングファームにて保険会社を中心とした企業の業務変革など、数多くのプロジェクトに参画。損害保険会社に転職後、経営統合のプログラムマネジメントや、デジタルトランスフォーメーションの社内横断タスクフォースなどに従事。セールスフォース・ジャパンではマーケティングやアライアンスを含め、国内保険業界向けのビジネス推進を担当。キャリアの原点は高校時代に経験したラーメン屋でのアルバイト。
パネリスト
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植田 良平(うえだ りょうへい)氏
アビームコンサルティング株式会社 執行役員 プリンシパル
アビームコンサルティングにて保険業界向けサービス提供や、金融機関向けWeb3領域のサービス開発を担当。異文化環境での業務経験を活かして、保険会社のグローバル戦略実行のご支援に日々従事している。
大学卒業後に東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)に入社以降、約25年に渡って日本や東南アジアの保険業界に関与。
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岸 和良氏
住友生命保険相互会社 理事 デジタルオフィサー
 
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古荘 佳子氏
アビームコンサルティング株式会社 金融ビジネスユニット シニアマネージャー
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柴崎 剛氏
三井住友海上火災保険株式会社  ビジネスデザイン部 課長代理

「web3の状況に大手企業は様子を見ている一方、先行する中小企業」
植田氏よりweb3やメタバースと保険における海外事例が紹介された。保険会社はこの分野に高い関心を示しているが、大手企業は様子を見ているように見受けられ、先行しているのは中小規模の会社だと述べた。一例として第一生命が出資した英国団体保険市場で事業を展開する「YuLife」を挙げ、保険にゲーミフィケーションを取り入れることで行動変容に結びつけていると紹介した。
 
「川上から川下まで。体験が分断されない組み込み型可能性を秘める」
岸氏は医療系の保険を例に、医師と健康診断の結果を基に将来のリスク体験をして、必要な保険を検討するものは取り組みやすそうだとした。健康診断自体は現実世界で行う必要があるが、検診結果をデータ化することにより、川上で保険ニーズを顕在化させられる可能性を示唆した。貯蓄系の保険はクリプトと絡めることで、保険だけのサービス価値だけでなく、付加価値が向上できるのではと述べた。東山氏は、今後の変化において「顧客の体験価値」と「従業員の体験価値」の2点がポイントであり、特に保険加入後の顧客体験が大きく変わることが予期できそうだとした。またメタバースを通じてZ世代に対して保険を販売することで、保険募集人が従業員の体験価値を向上させられる職種として改めて注目されてくるのではとまとめた。
 
「保険のより細かいビジネスプロセス、契約手続き、保全、解約、保険金支払などがメタバース上でどう変わる?」
保険は金銭的保証ではなく、問題解決の領域に入る可能性があると、古荘氏は見解を述べた。現実空間では保険会社が治療治療や、破損したものを修理はできないが、メタバース上で作られたものを修復することもあり得るのではないかと加えた。
 
保険業界におけるブロックチェーンとスマートコントラクトの影響は?」
岸氏は、2016年頃に保険のビジネスプロセスをP2P型のブロックチェーンで完結できないか検討していたことがある。シンプルな保険であれば可能性はあるが、エンタープライズとして、会社規模を維持しながら、多種多様な保険を全てブロックチェーンで引き受けるのは困難と当時結論づけたと言及した。また、ブロックチェーンがハードフォーク(永久分離)してしまった場合、現状では修正不可であり、お客様への説明方法も整っていないなど課題を認識した。ただ今後可能性がゼロとは言い切れないと述べた。
東山氏は完全にデジタルの世界だけで完結するリスクは、ブロックチェーンでも解決していくのではないかと述べた。また、現実世界においてもパラメトリック保険が既に存在していることや、アリアンツが欧州で国をまたいだ自動車保険にブロックチェーンを活用していることも紹介した。
 
「保険商品やビジネスプロセスはどのように変化する?」
柴崎氏は、顧客体験やプロセスを含め、「保険に加入している」という意識を持たせないサービスに変わっていく可能性がある。わざわざメタバースの世界に入って保険加入という行動は現実的ではなく、導線の中で自然に加入している、もしくはメタバースに入った瞬間に適用されるといった顧客体験が必要。各社がただ代理店を出店するアプローチは厳しいと考えると述べた。
また、Lloyd’sのような、各保険会社や保険代理店が集合し、どのようなリスクであっても引き受け先が見つかるというような空間があったら面白いのではないか。ブロックチェーンは、ネット完結でNFTで証券を交換でき、簡易的な保険金請求というような顧客体験なら可能性があるが、認可の問題もあるため、実現可能性はまだわからないと話した。
最後にそれぞれの担当からの一言で締めくくられた。
植田氏は、メタバースやweb3が持っている本質を理解することが重要。そういったことの啓蒙活動が必要だと感じている。未だ懐疑的な意見もあるが、物理的な制約を超えることで、生活レベルや価値が上がることを考えると可能性を感じている。保険会社と若い力をつなぐ存在になっていきたいと感じている。
古荘氏は、web3に限らず、保険会社の方と新しいテーマで一緒に悩み考えられるのは醍醐味なので、今後も支援していきたい。
柴崎氏は、前述のマーケットプレイスの構想も1社だけだと意味がない。協調領域として、各社ならびに代理店も一緒に乗っていけるマーケットプレイスが作れることを期待している。
岸氏は、大企業として顧客価値を絶対外さないことが大事。自社のビジネスモデルは何か、そこのバリューチェーンは何なのかを冷静に考えることが大切であると感じている。
 

クロージング

まとめとして東山氏は「保険」を中心に問を立てたが、それによる人々の生活への影響を中心にとらえることが重要だと述べた。参加することが大事と言われるweb3は未来がどう変わるのか、主体的に自分ごと化して業界を越えて未来づくりをしていければと感じている。、協調領域として保険業界内外一緒に、こうした勉強会などを通じて議論や未来づくりをしていきたいと思うと締めくくった。
参加者からは以下のようなコメントがあり、非常に有意義な会となった。
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「メタバースやDXに関して第一線でご活躍されている方々がこんなに多く一同に会し、お話を聴けることは大変貴重な機会でした。」 「メタバースについての今後の展望と、保険がどうか変わっていくるのか、有識者の方々の話が聞け勉強になリました。」 「他のコミュニティやセッションにはない幅広い視点の話題が登場して保険業の未来を多角的に議論されていた点は相当価値がある場と感じました。」 「岸さんのコメントだったかと思いますが『保険は体験価値の提供と言う点では弱い』というコメントが印象に残りました。確かにそのとおりかもしれなくて、保険をどう体験価値に結びつけるか、今後の業界全体のいいテーマだと思いました。」
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