独自視点:世界のWEB3×保険の注目プロジェクト

WEB3と保険のビジネスを考える上で、4つの内容に分けることができると考える。そこで、それぞれの分野で注目している企業を独自視点で紹介する。

独自視点:世界のWEB3×保険の注目プロジェクト
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前回の記事で、WEB3における保険革新の2つの方向性について、考察を紹介した。それらをWEB3を活用した保険(ここではWEB3による保険)とWEB3のための保険(ここではWEB3経済への保険)に分類し、更に4つにカテゴライズした上で、各カテゴリにおける注目企業を紹介する。
 
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【天候インデックス保険】Lemonadeがアフリカの気候変動リスク対策の保険を提供する自律分散型組織を設立

InsurTechの代表格とも言えるLemonadeは、総額$481.5M(※)を調達しニューヨーク証券取引所への上場を果たしている。
2022年3月、アフリカの農家を気候変動のリスクから保護する目的で、自立分散型組織(DAO)である「Lemonade Crypto Climate Coalition」が2022年3月に設立された。
本組織はブロックチェーンの技術を活用し、パラメトリック保険を開発している。注力するのは、アフリカの零細農家に絡む、気候リスクに対する補償だ。同社によると、彼らは作物を降雨に頼っているため、特に干ばつに弱いとのことだ。しかし、世界的に天候保険は保険料が高額になるか存在しないかの極論となっているようで、低所得国では農業保険に加入できるのは農家人口の3%未満というデータも存在している。(詳しくはこちら
かねてから、本当に保険を必要としている人に保険が届かないことは問題視されていた。近い話で、こちらのTED Talk(英語)では気象データから得られる情報を基に、間伐がひどい地域では保険金が受け取れる仕組みを作った話がある。ここで紹介される通り、サイクロンや干ばつ、大洪水などに対する早期警報システムもほとんどない。これをブロックチェーン技術を用い、保険料をプールし、暗号資産で仕払うという仕組みだ。
2015年の創業時、同社のサービスとしてユニークだと話題になったのは、ユーザーに対して保険加入時に自分の関心がある社会課題を選択させ、未請求だった際の保険料をそのテーマに関連するチャリティに寄付できるというポイントだった。このように保険販売に留まらず、社会課題解決に取り組むLemonadeの取り組みには今後も注目だ。

【飛行機遅延保険】ブロックチェーン活用でフライト遅延保険が自動的に保険金が支払われる仕組み”ETHERISC”

独国のスタートアップ、ETHERISCはEthereumブロックチェーンのスマートコントラクトを利用し、合理的かつ即時性を担保したフライト遅延保険を2017年から提供している。同社はflightstats.comのAPIを活用し、過去のデータに基づいて遅延やキャンセルの確率を予測している。保険加入者のフライトが遅延またはキャンセルされた場合、保険加入者へのデジタル通知が行われ、自動的に保険金が支払われる。加入者も保険会社も煩わしい手続きなく文字通りスマートに完結するため、今後の普及に期待だ。
また、以前は同様の保険がAXAからfizzyという名称で欧州限定で販売されていた。フライトが2時間以上遅延やキャンセルがあった場合、着陸後数分で補償についての連絡があるそうだ。fizzyもETHERISCと同様に保険会社に補償の請求をする必要がなく、保険会社側の生産性も向上すると考えられていたが、ARTIFICIAL LAWYERの記事によれば2019年末にはサービスが終了してしまったそうだ。需要が少なく、商業的な目標に達しなかったことが理由とのことだ。
ETHERISCはfizzyのように途中で頓挫することなく、発展し続けることができるのか。今後の動向を注視していきたい。

【アプリケーション】ハッキング被害が増大する暗号資産。DeFi専用保険を提供する ”Nexus Mutual”

ここまで暗号資産にまつわる明るい未来を紹介してきたが、実は現在、暗号資産関連のハッキング被害が多発している。ブロックチェーン分析企業のChainanalysisによると、2022年10月13日時点で、7億1800万ドル(1000億円以上)の被害が発生しており、過去最悪となっているのだ。そこで、必要とされるのが、こういった被害者を救済するDeFi専門保険。英国でスマートコントラクトを補償するためのプロセスを整備するNexus Mutualについて紹介する。
彼らは厳密には保険を販売しているのではなく、保証有限責任会社(※)における会員間の相互補償としているため、基本的に保険規制が適用されないところに特徴がある。補償の仕組みは、会員費を支払い、会員となり、補償に必要な一定額の手数料(≒保険料)を支払い、これが保険料としてプールされるのだ。そして、利用者がバグやハッキング等によりスマートコントラクトが適正に実行されず損害を被った場合に支払対象となる。会員が補償を購入する際に自分で保険金額が選べる。実際に被った損害に関わらず、当初選択した金額が支払われる。保険金支払いの可否は会員の投票によって決められる仕組みである。まさにDAO的な体制だ。
ただし、日本の保険法において暗号資産建ての保険の許可がおりていないため、日本から利用することはできない。
※有限責任会社とは英国における会社法における会社組織の分類のひとつ。

【プロトコル】日本人初のDeFi保険 ”InsureDAO”

そこで、日本初のDeFi(分散型金融)保険のInsureDAOを紹介する。同社は2022年7月7日に海外暗号資産取引所「MEXCグローバル」に上場した。シンガポールに拠点を置くものの、創業者の斯波氏をはじめ、日本人チームで形成されている。同社が対象にしているのは保険と言えば「生保・損保」というイメージを払拭するかの如く、DeFiや暗号資産における想定外のバグなどによる資産のロスである。誰も運営していないので、誰も責任が取れないことがDeFiのデメリットであるが、そのロスをカバーすることが目的だ。ちなみにイーサリアムにアクセスすることができる人は誰でもKYC不要であらゆる保険の作成、購入、引き受けが可能となっている。コードの監査会社で形成されるチーム”ReportingDAO”がバグの程度から査定し、保険金を支払っている。保険金の支払いの一連の流れは7日程度で完了するそうだ。これからの需要増加が想定される分野で最先端の保険開発を進める日本初のInsureDAOチームを応援したい。

【プロトコル】アーティストのための保険 ”HARTi × 三井住友海上火災保険株式会社”

初のアーティスト向け保険を開発したことで一躍有名となったNFTアートのマーケットプレイスがHARTiだ。HARTiは日本初となる出品完全審査制・招待制のアプリ型NFTプラットフォームを提供しており、国内大企業とパートナーシップを実現し、事業開発に挑戦している。同社は、三井住友海上火災保険株式会社とタッグを組み、いち早くNFTマーケットプレイスの出品者向けに専用保険を開発し、話題を呼んだ。デジタルデータにも価値がつくようになったものの、様々なリスクが潜在しているのは事実だ。これは保険会社初の試みとなり、どのような想いで開発に至ったかを伺うイベントを去る10月に実施した。イベントのアーカイブは以下のリンクから視聴が可能。ぜひご覧いただきたい。
 
次回はこのイベント「国内初のNFT保険 その開発の裏側」についてのレポートとhokan尾花の考察を紹介する。
 
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