日本でも国家戦略に指定されたWEB3。保険業界はかつて興ったICOプロジェクトを越えられるか?

国家戦略に指定されたWEB3事業。実は過去にInsurTechでICOプロジェクトが多数生まれた過去はご存知だろうか。今回は世界のWEB3の現状とICOプロジェクトが興った当時について、そしてWEB3における保険革新の未来の考察を紹介する

日本でも国家戦略に指定されたWEB3。保険業界はかつて興ったICOプロジェクトを越えられるか?
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目次

WEB3経済、世界での盛り上がりは?

WEB3を代表する、NFTは5年で4.4倍の市場成長が見込まれ(世界的な市場調査会社MarketsandMarkets(マーケッツアンドマーケッツ)社の市場調査レポート)、メタバースエコノミーは2030年には8兆〜13兆ドルを超えるのではと想定されている。暗号資産は冬の時代とも言われているが、WEB3の世界は引き続き、盛り上がりを見せているのだ。
hokan代表の尾花は2022年6月21日から23日にかけてニューヨークで行われた「NFT. NYC 2022」に参加した。これは世界最大級のNFTイベントで、2019年から毎年開催されており、今年は4回目だった。イベントの目的は、コミュニティの形成やNFTの価値をグローバルに普及させることなどだそうだ。今年は例年にも増した盛り上がりで、1500人の登壇者と15000人近い参加者、さらにスポンサー企業は300社以上とのことだ。タイムズスクエアの「ニューヨーク・マリオット・マーキス」をメインとした7会場で各種イベントが実施されていた。当時、暗号資産の価格は大幅に下落していたにも関わらず、その冬の時代を感じさせないものすごい熱量だった。
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NFT NYCでの様子©Masashige Obana
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アメリカ・中国・日本での現状

さて、保険にかけて、保険大国上位2国の現状を調べてみた。アメリカではバイデン大統領が2022年3月9日(米国時間)に、暗号資産(仮想通貨)に関する大統領令に署名した。これは、消費者保護をはじめ、国家安全保障、不正防止などの観点から、暗号資産の規制計画を策定するよう指示するためのものであり、政府として初の統一規制を制定することで、本格的な戦略化に舵を切ったことがわかる。
一方、中国では全面的に仮想通貨取引は禁止されている。中国人民銀行が2021年9月に発表した「仮想通貨取引における投機リスクのさらなる防止と対応に関する通知」において法定通貨とか仮想通貨の交換、仮想通貨の取引、注文称号、トークン発行、デリバティブを提供するサービスは違法な金融行為であり、固く禁じられていると説明している。このように国内の資金移動を監視・統制したい中国はいわゆるデジタル中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)を作り世界的な地位向上を目指しており、暗号資産市場は切り離している。なお、香港のSouth China Morining Postによると、CBDCの取引量は10月13日に1000億人民元(約139億ドル, 約2兆500億円)に達したと伝えている。現在は取引高の伸びは減少しているそうだが、今後の動向にも注目したい。このように各国での対応はさまざまである。
 
日本においては、2022年6月に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が改定され、デジタル化の基本戦略の1つにWEB3.0の推進が掲げられており、政府はWEB3関連の取り組みをすすめることを名言している。
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WEB3の基本的なことが知りたい方はこちらの記事から!
国内のマスメディアでもメタバースNFTアートなどが取り上げられる機会が格段に増えてきていることで、認知度は高まってきている。さらに、各業界からのエンジニアも集まってきており、技術的なバックグラウンドは日々進化を感じられる。この業界にいる方々が積み上げてきたものの結晶であることは言うまでもない。

日本の保険とWEB3関連の取り組み

さて、何か新しいものが生まれれば、そこに予期せぬ事態はつきものなので、必ず保険の開発が始まる。
先日、日本で初めてNFTアートの出品者を守る保険も三井住友海上火災保険株式会社から誕生した。本件についてはまた次回以降で紹介する予定だ。同社は、メタバース上にも出品を実施するなど、革新的な取り組みを進めている。住友生命保険では給付金自動請求のためのブロックチェーンを用いた実証実験を開始している。あいおいニッセイ同和損害保険は2025年までに「メタバース」向けの保険商品の開発、提供を目指すと7月に発表している。
 

WEB3における暗号資産をとりまく課題

暗号資産の一番の課題は、資産としての安全性だ。
銀行預金では、銀行などの金融が破綻した場合には「預金保険制度」があるため、金額に限度や条件はあるものの、保護されるが、仮想通貨は同等にはならない。
現在、暗号通貨取引所のトップ3社である、Gemini、Coinbase、Crypto.comはそれぞれ数億ドル相当のコールドウォレット(※1)のウォレット内の資産を補償しているものの、ホットウォレット(※2)はまだまだと言える。ここには、損害が計り知れないことやこれまでに蓄積しているデータが少ないことが挙げられると思っている。また、あったとしても、保険料が高止まりしてしまい保険に加入することができないのではないかとも考えられる。
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1: コールドウォレット…暗号資産(仮想通貨)をオフライン上(インターネット接続が切れている状態)で安全に保管されているもの。コールドストレージとも言われる 2: ホットウォレット… インターネット接続された状態で保管されている暗号資産(仮想通貨)のこと
グローバル経営コンサルティングファームのオリバーワインマンの記事によると現在の課題について以下のように言及されている。
”WEB3関連の経済では、現在保険が不十分であり、将来的に大きな可能性を秘めています。世の中には暗号資産(仮想通貨)や分散型金融(DeFi)、WEB3について魅力的に紹介されている発信がある一方で、現代の金融システムの一部を根本的に変革する可能性を秘めた実体も存在します。保険会社は今こそ注目すべき時であると考えます。現在、1兆ドルの暗号資産のうち、保険に加入しているのは1%未満です。”

かつて海外InsurTech業界で興ったICOプロジェクト

過去を振り返ってみると、2017〜18年にかけて保険業界においてもICOプロジェクトが複数立ち上がった。ICOにて発行された仮想通貨を媒介として、各プロジェクトで保険市場における様々な領域を刷新することが図られた。
  • iXledger(保険会社と再保険会社間での再保険取引プラットフォームの構築を狙う)
  • fidentiaX(保険契約者間の生命保険契約を売買する市場を狙う)
  • PolicyPal Network(仮想通貨のサイバーセキュリティ保険とP2Pの保険)
  • BLACK(保険ブローカーが簡単に自分の保険を作成できる。投資家はその保険に自由に投資できる)
この頃、その手軽さからICOを用いた仮想通貨が乱立した。結果、フィッシングをはじめとする損害が多発したことをきっかけに、中国や韓国ではICO禁止令発令、さらに各国でも規制が強化されたことによりICOブームは早々に終焉を迎えてしまった。
上記のプロジェクトも現在は事業転換が行われていたり、サービスが停止しているなど、苦汁をなめる結果に終わった模様だ。一方で立上げ当初のプロジェクトのビジョンは華々しく、保険契約者・保険ブローカー・保険会社・再保険会社などの保険業界に存在する各プレイヤーの間の取引を仮想通貨で行うビジネスモデル案は大方出尽くしたのではないかと思うほどだ。
いずれの事業もコンセプト自体は画期的なものだったが、やはりその安全性に対しての危惧があり、難しい結果になったのではないかと考えている。暗号資産の健全な発展を促すための規制、そして事業者と消費者を守る保険も求められている。

WEB3における保険革新の2つの方向性

では、そんな中で、どのような革新的なアプローチをWEB3の経済で行える余地があるのか。既出のオリバーワイマンからの引用となるが、
暗号資産経済向けの保険、②保険のバリューチェーン改革である。
暗号資産向けの保険とはデジタル通貨だけでなく、アートなど全てのデジタル資産に対して窃盗や盗難、システムの脆弱に関する補償である。おそらく計り知れないリスクがあると考えられるが、企業や機関投資家からの需要を大きく満たすことができれば、一強にすらなり得るのではないだろうか。
また、中央集権が存在しなくても、スマートコントラクトが実現できれば、保険請求における人の介入が最低限になり、より安く、より迅速に保険の提案が可能になるのではないかと思っている。
次回は編集部が注目するWEB3×保険のプロジェクトについて紹介する。
 
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